治療薬適応や家族計画に欠かせない遺伝学的確定診断

ジストロフィノパチー(デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、女性ジストロフィノパチー、etc.)は、X染色体上のジストロフィン遺伝子(DMD)に変異が生じることによって生じる疾患です。確定診断は遺伝学的にジストロフィンの変異を証明する、または免疫学的にジストロフィン発現異常を証明することによってなされます。近年、新規治療薬の開発が進みつつあり、治療薬によっては遺伝子変異によって適応が規定されること、家族計画の相談等においては遺伝学的情報が必要になることなどから、現在は基本的に遺伝学的な診断確定を行いますが、遺伝学的検索の前には十分な遺伝カウンセリングが必要で、診断確定後も適切な医療管理につなげることが重要です。

現時点における、臨床症状や高CK血症、X染色体連鎖の家族歴等からジストロフィノパチーを疑う場合の、代表的な診断フローは下記のようになります。

※1:MLPA (multiplex ligation-dependent probe amplification) ジストロフィンの79全エクソンの欠失/重複を検索するもので、ジストロフィノパチーの60-70%程度を検索可能(保険適用)

※2、※3:遺伝子の塩基配列を検索し微少な変異を検索するもの(保険適用)

※4:筋肉の一部を採取して筋肉の病理学的な検索ややジストロフィン蛋白の発現異常を検索するもの(保険適用)

遺伝学的検査の際に考慮すること

2016年4月に「遺伝学的検査の実施に関する指針」において、デュシェンヌ型およびベッカー型が疑われる場合、患者1人につき2回の遺伝学的検査の実施が保険診療で認められるようになりました。このため、現在は侵襲性の検査を避けるため、MLPAで変異が見られない場合、続けて全エクソンのシークエンス検査を実施するのが一般的ですが、他疾患の可能性が高いと考える場合は先に筋生検を行ってジストロフィンの発現異常を確認してからシークエンス検査を行うこともあります。ジストロフィンのシークエンス検査は、公益法人かずさDNA研究所に委託可能です。

MLPA法で単一(1つだけ)エクソンの欠失/重複が見られた時は、そのエクソン全てが欠失/重複しているのか、微小変異であるのかを確認するために当該エクソンとその両隣のエクソンのシークエンス検査を行います(BMLはエクソン52の単一欠失についてはPCR法で確認しているためシークエンス検査は不要です)。PCR法が実施可能な施設では、当該エクソンとその両隣のエクソンをPCR法で検索することでも確認できます。

以前にmultiplex PCR法による遺伝学的検索を受けられた方の場合、全てのエクソンを検索できていない(一般的には19個のエクソンだけを検索されています)ために、欠失/重複の範囲が決定できていない方、変異を同定できていない方がおられます。これらの方で遺伝学的な診断確定を希望する場合は、MLPAから検索をやり直すことになります。PCR法で単一エクソンの欠失/重複である場合は、シークエンスによる再確認は不要です(プローブの設定場所の違いによります)。